【プロ野球】カープ『ドラ1ローテーション』はいかにして完成したのか?
【プロ野球】カープ『ドラ1ローテーション』はいかにして完成したのか?
webスポルティーバ 4月29日(日)16時22分配信
「3人ならトリオ、4人ならカルテット、5人ならクインテッド。じゃあ、6人揃ったらなんて言うかわかります?」
プロ野球評論家の達川光男氏からの思わぬ質問に、しばらく首をひねって考えていると、「SEXTET(セクステット)って言うんですよ。何かいい言葉がないかな、と思って外国人に聞いてみたら、教えてくれてね。発音がちょっと微妙なんですけど、辞書でも確認しましたから間違いないですよ(笑)」と返ってきた。
達川氏に辞書まで広げさせた理由は、何を隠そう、広島投手陣の充実にほかならない。23試合を消化し、防御率2.45はセ・リーグ4位ながら、昨年の3.22(5位)を大きく上回る。セットアッパーのキャム・ミコライオから抑えのデニス・サファテへの安定感も光るが、やはり目を引くのが先発投手陣だ。前田健太を柱に、ブライアン・バリントン、野村祐輔、大竹寛、篠田純平、福井優也。ここまでこの6人でローテーションを回している。だから「SEXTET」というわけだ。さらに特筆すべきは、この6人がいずれもドラフト1位で入団した投手ということだ。
大竹…2002年ドラフト1位
バリントン…2002年MLBドラフト1巡目(全体1位)
前田…2007年高校生ドラフト1巡目
篠田…2008年大学・社会人ドラフト1巡目
福井…2011年ドラフト1位
野村…2012年ドラフト1位
なかなかドラ1の6人でローテーションを回すなど、お目にかかれるものではない。
今年4月で70歳になったベテランスカウトの宮本洋二郎氏は、「必ずしも1位が活躍するわけじゃないけど、1位で入った選手が順調に育つというのは、やっぱりチームにとっていいことですよね。それにしても今の投手陣は私がスカウトになってから一番充実しています」と語った。
入団前の評価と入団後の活躍が一致しないことが多いのもプロの世界だが、「順調な伸び」には何か理由があるのだろうか。ここで達川、宮本の両氏から返ってきたのが「マエケン効果」だ。もちろん、野村や福井とは年齢も近く、競争意識が好結果を生んでいることは想像できる。加えて、達川氏は次のように語った。
「もちろん前田は素晴らしい投手です。でも入団した当初は、ダルビッシュ(有)のように飛び抜けた才能があったわけじゃない。高校時代はPL学園のエースとして甲子園でも活躍しているけど、体も細かったし、びっくりするようなスピードもなかったし、球種が多かったわけでもない。だから周りの投手も、『自分も頑張れば、ああいうピッチャーになれるんじゃないか、近づけるんじゃないか』と思えたのではないでしょうか。前田は努力してここまで上り詰めたということで、そこが周りにもいい影響を与えている。野村にしても、前田の練習方法を取り入れたりしていますからね」
さらに達川氏は続ける。
「野球に取り組む姿勢、試合での気構えもいいですよね。今は味方打線の援護は少ないけど、そこを嘆くのではなく、彼が覚悟を決めてマウンドに上がっています。『1対0で勝つのがピッチャーの仕事。自分が0点に抑えればいいんだ』と。エースのそんな姿を見たら、周りも頑張るし、野手陣だって何とかしたいと思うはず。彼の人間的な素晴らしさも大きいですよ」
PL学園時代、スカウトとして前田を担当していた宮本氏からも同じような前田効果を聞いた。
「いくら素材がよくても活躍できない選手がいる中で、何が結果を分けるのか、我々はいつも考えています。その中で、前田を担当して僕自身も気づかせてもらったのが、内面の大切さです。練習に取り組む姿勢であったり、コミュニケーション能力であったり、目配りや気配り……。技術や体の強さはもちろんですが、目に見えない部分も備えた選手が結果を出していくのかな、と。野村や福井を見ていても通じるものを感じるところはあります」
ドラフト1位で評価されるような選手が内面も備えていれば、順調に伸びる確率は当然高くなるという。このような個人の資質に加え、今の広島の育成環境も「順調な伸び」に関係しているだろう。
例えば前田は、入団1年目は一度も一軍で投げることなく、ファームのローテーション投手として、ウエスタンリーグ3位となる100回2/3を投げた。ちなみに、現在セットアッパーとして活躍している09年ドラフト1位の今村猛も、1年目はシーズンの大半をファームで過ごし、63回2/3を投げ、2年目から一軍の戦力となった。宮本氏は次のように語る。
「当たり前といえばそうなんですが、高校から入団した選手は、1年か2年はファームでしっかり土台を作ってから上(一軍)で投げるのが理想。前田がその形できっちり結果を出してくれたから、やっぱりこういうスタイルが大事だと、再確認させられました」
そして達川氏は、コーチ陣の充実も挙げた。
「大野(豊)がピッチングコーチになって3年目になるんですけど、考え方が柔軟で、きっちりやらせるところはやらせながら、今の時代にあった練習も取り入れている。そこに山内(泰幸)という根気強く指導できる若手のピッチングコーチもいて、若い投手が力を発揮しやすい環境が整っていると感じます。試合で結果を出すという意味では、コーチ陣の存在は大きいですよ」
広島には80年代前半に投手王国と呼ばれた時代があった。北別府学、川口和久、山根和夫、大野豊、津田恒美……。その後は、ドラフトの逆指名制度、FA制度の導入により、思うようなチーム作りができない時代もあったが、ドラフトもウェーバー方式に戻り、ようやくこれまでのようにいい人材を獲得することが可能になった。そういう流れの中で、軸が育ち、人材も揃い、伸びる環境も整ってきたのだ。
最後に達川氏が、「『ひとり光る。みな光る。何もかも光る』という言葉を知っていますか?」と聞いてきた。またしても答えに詰まっていると、「誰かひとりがコツコツ努力して光を放つようになれば、その姿を見てみんなが光りだす。さらに、みんなでそれを続けていると、何もかもが光りだす」と説明し、「今の広島投手陣がまさにこの状態でしょう」と言った。
大黒柱・前田を軸にドラフト1位の才能豊富な投手陣が揃った「広島SEXTET」。投手王国復活とともに、21年ぶりのリーグ制覇ももはや夢ではない。
谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
プロ野球評論家の達川光男氏からの思わぬ質問に、しばらく首をひねって考えていると、「SEXTET(セクステット)って言うんですよ。何かいい言葉がないかな、と思って外国人に聞いてみたら、教えてくれてね。発音がちょっと微妙なんですけど、辞書でも確認しましたから間違いないですよ(笑)」と返ってきた。
達川氏に辞書まで広げさせた理由は、何を隠そう、広島投手陣の充実にほかならない。23試合を消化し、防御率2.45はセ・リーグ4位ながら、昨年の3.22(5位)を大きく上回る。セットアッパーのキャム・ミコライオから抑えのデニス・サファテへの安定感も光るが、やはり目を引くのが先発投手陣だ。前田健太を柱に、ブライアン・バリントン、野村祐輔、大竹寛、篠田純平、福井優也。ここまでこの6人でローテーションを回している。だから「SEXTET」というわけだ。さらに特筆すべきは、この6人がいずれもドラフト1位で入団した投手ということだ。
大竹…2002年ドラフト1位
バリントン…2002年MLBドラフト1巡目(全体1位)
前田…2007年高校生ドラフト1巡目
篠田…2008年大学・社会人ドラフト1巡目
福井…2011年ドラフト1位
野村…2012年ドラフト1位
なかなかドラ1の6人でローテーションを回すなど、お目にかかれるものではない。
今年4月で70歳になったベテランスカウトの宮本洋二郎氏は、「必ずしも1位が活躍するわけじゃないけど、1位で入った選手が順調に育つというのは、やっぱりチームにとっていいことですよね。それにしても今の投手陣は私がスカウトになってから一番充実しています」と語った。
入団前の評価と入団後の活躍が一致しないことが多いのもプロの世界だが、「順調な伸び」には何か理由があるのだろうか。ここで達川、宮本の両氏から返ってきたのが「マエケン効果」だ。もちろん、野村や福井とは年齢も近く、競争意識が好結果を生んでいることは想像できる。加えて、達川氏は次のように語った。
「もちろん前田は素晴らしい投手です。でも入団した当初は、ダルビッシュ(有)のように飛び抜けた才能があったわけじゃない。高校時代はPL学園のエースとして甲子園でも活躍しているけど、体も細かったし、びっくりするようなスピードもなかったし、球種が多かったわけでもない。だから周りの投手も、『自分も頑張れば、ああいうピッチャーになれるんじゃないか、近づけるんじゃないか』と思えたのではないでしょうか。前田は努力してここまで上り詰めたということで、そこが周りにもいい影響を与えている。野村にしても、前田の練習方法を取り入れたりしていますからね」
さらに達川氏は続ける。
「野球に取り組む姿勢、試合での気構えもいいですよね。今は味方打線の援護は少ないけど、そこを嘆くのではなく、彼が覚悟を決めてマウンドに上がっています。『1対0で勝つのがピッチャーの仕事。自分が0点に抑えればいいんだ』と。エースのそんな姿を見たら、周りも頑張るし、野手陣だって何とかしたいと思うはず。彼の人間的な素晴らしさも大きいですよ」
PL学園時代、スカウトとして前田を担当していた宮本氏からも同じような前田効果を聞いた。
「いくら素材がよくても活躍できない選手がいる中で、何が結果を分けるのか、我々はいつも考えています。その中で、前田を担当して僕自身も気づかせてもらったのが、内面の大切さです。練習に取り組む姿勢であったり、コミュニケーション能力であったり、目配りや気配り……。技術や体の強さはもちろんですが、目に見えない部分も備えた選手が結果を出していくのかな、と。野村や福井を見ていても通じるものを感じるところはあります」
ドラフト1位で評価されるような選手が内面も備えていれば、順調に伸びる確率は当然高くなるという。このような個人の資質に加え、今の広島の育成環境も「順調な伸び」に関係しているだろう。
例えば前田は、入団1年目は一度も一軍で投げることなく、ファームのローテーション投手として、ウエスタンリーグ3位となる100回2/3を投げた。ちなみに、現在セットアッパーとして活躍している09年ドラフト1位の今村猛も、1年目はシーズンの大半をファームで過ごし、63回2/3を投げ、2年目から一軍の戦力となった。宮本氏は次のように語る。
「当たり前といえばそうなんですが、高校から入団した選手は、1年か2年はファームでしっかり土台を作ってから上(一軍)で投げるのが理想。前田がその形できっちり結果を出してくれたから、やっぱりこういうスタイルが大事だと、再確認させられました」
そして達川氏は、コーチ陣の充実も挙げた。
「大野(豊)がピッチングコーチになって3年目になるんですけど、考え方が柔軟で、きっちりやらせるところはやらせながら、今の時代にあった練習も取り入れている。そこに山内(泰幸)という根気強く指導できる若手のピッチングコーチもいて、若い投手が力を発揮しやすい環境が整っていると感じます。試合で結果を出すという意味では、コーチ陣の存在は大きいですよ」
広島には80年代前半に投手王国と呼ばれた時代があった。北別府学、川口和久、山根和夫、大野豊、津田恒美……。その後は、ドラフトの逆指名制度、FA制度の導入により、思うようなチーム作りができない時代もあったが、ドラフトもウェーバー方式に戻り、ようやくこれまでのようにいい人材を獲得することが可能になった。そういう流れの中で、軸が育ち、人材も揃い、伸びる環境も整ってきたのだ。
最後に達川氏が、「『ひとり光る。みな光る。何もかも光る』という言葉を知っていますか?」と聞いてきた。またしても答えに詰まっていると、「誰かひとりがコツコツ努力して光を放つようになれば、その姿を見てみんなが光りだす。さらに、みんなでそれを続けていると、何もかもが光りだす」と説明し、「今の広島投手陣がまさにこの状態でしょう」と言った。
大黒柱・前田を軸にドラフト1位の才能豊富な投手陣が揃った「広島SEXTET」。投手王国復活とともに、21年ぶりのリーグ制覇ももはや夢ではない。
谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
- 2012.04.29 Sunday
- 雑誌、紙面
- 18:37
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- by Toron Boss

















